『WorldShift』という社会彫刻
京都造形芸術大学教授 谷崎テトラさんとの対話
“Jeder Mensch ist ein Künstler”
ー人は誰でも芸術家である。
あらゆる人間はその創造性によって社会の幸福に貢献しうる。「自ら考え、自ら決定し、自ら行動する人々」である芸術家として、誰でも未来に向けて社会を彫刻することができるし、しなければならない。ドイツの現代美術家ヨーゼフ・ボイスは、拡張された芸術概念として社会彫刻を発想してから、もうすぐ半世紀が経とうとしている。
半世紀後の私たちも、社会を変容させ、あらたな現実を生み出す可能性を芸術にみている。
では、どの方向に私たちは社会を彫刻すべきだろうか。どんな態度が必要だろうか。
『WorldShift』という活動は、その方向性を示そうとしているように感じ、私たちはその活動を日本で広め、京都フォーラム開催を目前に控えた谷崎テトラさんのもとを訪ねた。
テトラ
リーマンショック直後の2009年、アーヴィン・ラズロ博士は今(当時)の地球は危機的状況にあって、22世紀までに文明を維持できない理由が100以上あると言いました。社会・生態系・経済、この3つの大きな危機があると。
しかし、これらは地球環境にいいことをしようというレベルでは解決できない。そこで文明そのものを転換し、人類のマインドセットを変えないといけないと博士はお話しされました。人を殺したり環境を破壊するのは文明とは言えないのではないか。新しい人類の文明をつくる必要があると提唱されたんですね。博士は、この危機は人間が人間らしくいられる文明を始めるためのチャンスなんだとおっしゃっています。
「World」と「Shift」の間にスペースがないワンワード。環境問題、ジェンダー、人権問題などの問題に取り組む人は、このワードを聞いた瞬間にピンとくる人もいると思います。自分は、文明の転換期のための仕事をしていたんだとね。それぞれの仕事を通じて社会を変えていく。今、そのような動きが、世界中で始まっていますよね。
桜井
僕は『WorldShift』という言葉を聞いた瞬間ピンときたんです。これはパラダイムシフトのことなんだと思いました。社会を変えると言っても、これまでのマインドセットから変えないと変化がこれまでの問題を拡大してしまう。そもそものマインドを変えることが大事ですよね。
1968年12月24日にアポロ8号が月面着陸して、人類が初めて青い地球を目にしてから、わずか50年しか経っていない。青い地球を見たあとの世代の僕らからマインドを変えていかないといけないですよね。その意味で僕らは、ネクスト人類にならないといけない。今回『PLAY ON』をつくったのは、ただ「LIVE(住む)」「WORK(働く)」だけではなくて、「PLAY(遊ぶ)」をしようというところからなんです。
「PLAY」は自分の心が踊るし、目的がない状態でも始められる。これまでのマインドセットの延長線上の目的では心が動かないことに、実はみんな気づいていると思うんです。それでもなかなか動き出せないのは、動いた先に経済的価値や社会的価値を生むのかということを先に心配してしまうから。
アートがそうであるように、それは未来の社会が決めればいい。プライベートにアートすることが「PLAY」だし、今僕たちが信頼する価値観も先人たちの「PLAY」の積み重ねにあると思うんです。
芸術がアーティストだけのものじゃなく、つねに身近なところにあるように。芸術へのハードルを下げるために、芸術をみんなで考え芸術をする機会やきっかけをつくっているのが『PLAY ON』なんです。
テトラ
初めて外から地球を見て、パラダイムシフトが起きた。およそ50年前に変化が始まったわけですよね。人類のマインドセットが変わった。でも、経済の仕組みも社会の仕組みも、その前につくられたものなんですよね。経済全体をどう分配するかという議論がありますが、地球全体のキャパシティが決まっていて、リソースが限られているなかで、経済を循環させなければけない。1980年代に入って、ハーマン・E・デリーが「エコロジー経済学」を提唱するまで、無限に成長しパイが無限に成長していくってことが前提で経済学が成り立っていた。
実は、僕のテトラという名前は、R・バックミンスター・フラーの「テトラスクロール」からとったんです。フラーは、宇宙船地球号操縦マニュアルのなかで、宇宙船では食料・水・空気が限られた環境であり、宇宙船のなかで排泄物を処理しないといけないという状況について話しています。廃棄物は宇宙に捨てるわけじゃなくて、閉じられたところで循環させないといけない。宇宙船というのは旅客機じゃない。運転手がいてお客さんがいるのではなくて、乗っている全員がミッションを持っていて、全員がプレイヤーなんだと。そして彼は、地球は宇宙船なんだと言ったんですね。地球もまた、全員がミッションを持った乗組員なんです。『PLAY ON』の話を聞いたときに、僕はこの話につながったわけです。
桜井
テトラさんは『WorldShift』に心が動いて、今活動をしている。何がテトラさんを『WorldShift』に出遭わせたと思いますか?
テトラ
マーケティングや新しいプロジェクトを立ち上げるときに「ビジョン」「ミッション」「バリュー」が必要だと言われます。どれが一番大切だと思います?
桜井
「ミッション」かな。「ビジョン」や「バリュー」は都度時代とともに変わるから。
テトラ
どれも重要なんですが、どれが大切と感じるかでその人の仕事の仕方とか、関わる領域が変わるんですよね。「ビジョン」のなかで、どういった価値が必要かが「バリュー」なんだけども、気づきがはじまった人は、この「ビジョン」を明確にすることがとても大切で、『WorldShift』をやることで、「ビジョン」を発見できる。すでに桜井さんみたいに自分の活動をはじめている人は、「ミッション」って言葉が響くんですね。
ミッションの語源は「ミサ」。僕らは、集まりのことを「ミサ」って思いがちなんですけど、実はラテン語では集まりの最後に司祭が言う言葉のことなんですよ。それぞれの自分の持ち場、職場、家庭、地域、カテゴリーのところに帰っていって、働きはじめるのがミサ。そのことがミッションなんです。
桜井
初めて知りました。テトラさんのミッションや今の活動について伺ってもいいですか?
テトラ
僕は放送作家の仕事を25年やってきたんですが、「ウゴウゴルーガ」とか「浅草橋ヤング洋品店(ASAYAN)」とか、いわゆるテレビ番組のゴールデンの番組をしていたんです。1995年に、番組のネタを探しにインド、アフリカ、南米を旅しました。そこでは、その後の人生のテーマとなるような地球の現実や世界の現実を見たんです。
インドの本当の貧困地域、足が不自由な人たちやホームレスの人がたくさんいるところも見たし、アフリカの砂漠化していく現実、そこの現地の人たちが、先進国からくる人たちを憎悪の眼差しで見ているところも感じました。それは命の危険を感じるくらいの憎悪でした。
そして決定的だったのは、南米のアマゾンのケロ族の集落にいったときのこと。何週間か過ごして、圧倒的に美しい生物多様性の自然、何百年も続いてきた伝統的な文化や歴史を見た時に、文明の古い部分でなくて新しい部分を見たんですよ。彼らの植物や動物、命への視線。幸せの定義。
彼らは飛行機も宇宙船もないけれども、タイムトラベラーだと思ったくらい、とても洗練された人たちでした。人類がこのマインドセットに到達することが、未来に必要だと思ったんですね。
ここでの体験は、僕の心のなかに大きな変化をもたらしました。単純に一つの番組をつくるではなくて、人生をかけて取り組むべきテーマだなと思いました。あまりの世界の美しさを感じたがゆえに、帰りの飛行機で涙を流すぐらい。先住民の長老が吹いた口笛を思い出すだけでも泣けてきたり。
僕のなかでは大きな感情の高ぶり、静かだけど大きな変化が起こったことを感じました。一体自分が東京に帰ってきて何をするんだろうと思ったんですね。すでに今までと同じ番組をやるイメージはなくなってて、今の自分に何ができるか考えたときに、環境番組ならつくれそうな気がしたんですね。
でも20年前の当時、僕には世界の問題の知識がまったくなかった。今まで環境活動の人たちを横目で見ていたけど、ちゃんと話を聞いたことがなかった。だから、そういう人たちにちゃんと話を聞こう、そんな番組を作りたい、と思ったんです。
NPOやNGOに話を聞いたり、当時創刊したばかりの『ソトコト』とか、環境に関しての雑誌で記事を書きました。その頃ライフスタイルの価値観も変わりはじめていて、ニューヨークとかヨーロッパのカルチャーを追いかけるのが最先端でなくて、北欧デザインとかニュージーランドとか、そういうところがライフスタイルの最先端だと変わり始めていた時期でした。見習うべきところは、独自の豊かさを持っているところだと。
桜井
裏原宿が独特の文化として注目されたのもこの時期ですよね。欧米への追随とは違う、東京は東京の文化という流れがあった。
テトラ
そうそう。それで96年に帰国して、97年に京都議定書が出て、そこで地球温暖化を知るわけです。今でこそ誰でも温暖化は知っているけど、当時は気候変動や温暖化はまるで知られていなかったし、僕も知らなかった。
今までの温帯が熱帯になるんだったら、サンバでも踊って楽しくやればいいんじゃないのくらいに思っていたけど、そうではないと。食料問題でもあるし、そこから砂漠化が始まり、生物多様性が失われ、病気が増え、さまざまな社会を崩壊させていく。
それによって今度は、国家間の紛争すらも起きて環境難民が生まれ、資源を巡って争いが起きる。さまざまなことが関係していることがわかってきたんですね。でも、そのことを一生懸命番組にしはじめるとネガティブな気持ちになってしまって、自分も落ち込んでしまう。
そこで、解決策やソリューションを持っている人をインタビューしていこうと、世界中のエコビレッジを巡りはじめるんです。1998年からオーストラリアのクリスタルウォーターズ、イギリスのフィンドホーン、イタリアのダマヌール、アメリカのアルコサンティなどを回って、そこでの知恵を学び伝えはじめるんですね。
そこでパーマカルチャーや地域通貨、そういった制度をつくるための民主的な議論の仕方も学びました。ここで起きていることは、人類の未来のアイデアとヒントの塊だということがわかった。
これらのことを広めようと始めたのが『BeGood Cafe』、そして2000年に東京で始めたのが『Earth Day Tokyo』だったんです。
そしてこの流れから2008年リーマンショックがあって、単なる環境だけでなくて経済と社会を結びつけた文明の転換が必要だと思った。それで今の『WorldShift』の動きに関わるようになったんですね。
桜井
今回の『WorldShift』京都フォーラムでは、どんなことを扱うんですか?
テトラ
今回のフォーラムでは、「まなぶ」「つながる」「うごく」がテーマになっています。まずは3つの危機に対して、新しいパラダイムを持っている人に話を聞こうと、環境に関しては東北大学准教授である佐藤正弘さんにお話を伺います。
彼は「エコロジー経済学」の翻訳者でもあります。80年代以降の地球全体のキャパシティを前提とした経済のあり方についてもっとも知見がある人の一人で、金融庁では「排出権取引」、環境省では「地球サミット」を扱っていらっしゃいました。『地球サミット2012 JAPAN』でも彼が代表で、僕が副代表だった。それに彼はAIの専門家でもあるんです。
地球環境は2012年地球サミットの段階では、かなり絶望的だったわけです。おそらく人類の善意を終結させても間に合わないし、いいことをしようとしても経済活動の方が上回ってしまう。でも、この5年間のテクノロジーの加速度的な進化によって、もしかしたら地球は大丈夫かもしれないという可能性が出てきた。
例えば、何かを船で輸送するときの波の状態とか気象状態とかを事前に予測でき、最適化された航路をAIによって導き出すことができる。それによって資源が50%削減できるんです。人間がやると何時間もかかるゴミの分別の作業も、IOTによって細かく分類して資源化することができる。
それから、食品の廃棄物の問題。東京では年間およそ26万トンが捨てられていて、その一方で、世界中で飢餓人口はおよそ8億人が苦しんでいますが、これもテクノロジーのおかげで、その日の天気とか人口動態を計算して、最適な量を生産できるんですよ。
もちろんテクノロジーだけではなくて、そこに我々のマインドセットが結びつくことが必要ですけどね。そのマインドセットを促すのが『WorldShift』なんです。こういう世界をつくりたいという気持ちが一つになるとパラダイム・シフトが可能になる。
AIというと将棋が勝った負けたとかね、そういう話ばかりでそれは全然違う。最近では、AIで50%の職業が失われると言われて、戦々恐々としているけれど、自分のことだけを考えるとそうなるんですよ。けれど、社会全体の生産性は落ちない。つまり仕事の量は半分になって生産性が落ちないってことは、社会全体でワークシェアがちゃんとできていれば半分の量で文明を維持できるということなんですよ!
テクノロジーで上がった生産性で得られたものをいかに社会に分配するか、そこでベーシックインカムが重要な状況になっています。昨年に世界中でその社会実験が始まりました。その辺りのヨーロッパの状況を説明してくれるのが佐々木重人さん。
今、資本主義のあり方が変わりつつあって、マネーの資本主義から関係資本や信頼資本、もしくは自然資本と呼ばれるあり方へとこれから変わっていく。信頼による資本主義が最大化されていく社会を応援していく財団の仕組みをつくったのが、公益財団法人信頼資本財団 理事長/アミタホールディングス株式会社 代表取締役の熊野英介さん。今回は社会のあり方についてお話いただきます。
そして「つながる」のパートでは電通の並河進さんをモデレータに、文明哲学研究所の田中勝さん、映像作家の丹下紘希さん、勉強家の兼松佳宏さん、ミラツクの西村勇也さんでトークセッションを行います。
さらに、社会を変えるためには、心をどう置くかが重要になってきます。動くために心の不動の点をつくると言えばいいでしょうか。その心のイノベーションを、京都でもっとも古い禅寺である建仁寺両足院の副住職である伊藤東凌さんにお話いただきます。
さらにさらに、スウェーデンからはバートゥーラさんという方もいらっしゃいます。彼はインパクトムーブメントをやってきたキーパーソンで、世界300箇所のムーブメントをつなげてきた人。彼は欧米のキーパーソンとはつながっていますが、日本とのつながりがないと話しています。だから「WorldShiftフォーラム」を日本のキーパーソンとつながれる場にしたいんです。
極め付けは、今回のフォーラム全体の司会に、ワークショップファシリテーションの第一人者である京都造形芸術大学副学長の本間正人さん、大江亞紀香さんがつとめます。これ結構すごいことなんですよ。
桜井
テトラさんは、テクノロジーという言葉をを狭い意味で捉えてないところが面白いなと思っています。先住民の方もエコビレッジの方も持っているものはテクノロジー。全部人間が生み出したテクノロジーですよね。
今の価値観に基づいてそれらをみようとするから、テクノロジーだと思わないだけで。マインドフルネスや、禅、人工知能も同じようにテクノロジー。それらのテクノロジーを、現代に生きる人々にとって素晴らしい技術として見せることができるのがテトラさんのクリエーションの力。
経済合理性に寄与するテクノロジーだけでなくて、そうでないものもフラットに見て、価値を共有しようとしているところが『WorldShift』 フォーラムの価値だと思うし、環境問題をネガティブに訴えるアプローチではなく、僕らがすでに手にしている技術を照らすからとてもポジティブです。
今回の『WorldShift』京都フォーラムでは、どんなことを扱うんですか?
テトラ
90年初頭に「情報」の考え方・捉え方が変化したんですね。遺伝子情報のように、新聞やテレビだけでなくて、生命も情報と呼ぶようになった。それと同時にエコロジーも変わった。
以前僕たちはエコロジーは自然生態系のことを言っていると思っていたけれども、社会のエコロジー、思想のエコロジー、情報のエコロジーという3つの分野が出てきた。これはフェリックス・ガタリという人が提唱した「三つのエコロジー」です。
情報の概念も変わって、生命の概念も変わっていく。テクノロジーと自然を分化して考えるというのは、80年代以前の考え方で、僕たちの価値観や意識に及ぶまで一元化して情報と捉えることができる時代になってきたが故に、そこにおいての22世紀はどういう世界になるかなと考えたときに、今回のゲストにおのずとなりましたね。
2040年国連の統計だと、人口が100億人に達することになっているんですけれども、食料や資源の量や汚染の量を足すとそこに達する前に、人口がブレークダウンすると言われています。このまま生産活動をし続けると、新しい資源は見つかっているんだけれども、とれなくなって頭打ちになる。
実は、化石燃料がなくなると農薬が作れなくなるんですよ。農薬が作れなくなると生産性が激減する。もしくは人の数が8倍になるので、今の生産性は保てない。工業化社会の食料の作り方でなくなって、ブレークダウンする。かつてないほどの人口増加と現象が起こるわけです。
自然減じゃなくて、食べものや仕事がなくなることで減っていく。だから、2030年から40年の間に一気に変わっていくので、2020年から30年の間にマインドセットを変えて、社会の仕組みも変えないといけない。これが『WorldShift』。そこでそういったマインドセットや価値観を共有する必要があるんですよね。
桜井
以前お会いしたときに、リオの地球サミットで絶望を感じたんだけど、一方であらゆるところでダイアログが起こっていたというのに希望を感じたとおっしゃってましたよね。
テトラ
サミット自体は失敗したんだけど、市民が勝手に非公式に3,000の会議を開いていて、国際社会のソーシャルインパクトをつくり出していたわけ。トランプ大統領がパリ協定を脱退すると宣言したけれども、アメリカの起業家たちが自分たちがアメリカ人としてパリ協定に批准してやるんだと言い出した、のようなこと。地域とか市民が国を超えて連帯できるようになったのも、今の時代の特徴ですよね。
エネルギーの分野でもシフトが起きていて、産業や社会構造の民主化、分権化、エネルギーの種類が変わるというだけでなく、根本的な価値観の転換が起きている。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さんによれば、破壊的な変化が起きていると言われています。資本主義が終わるとか経済が終わるとかいろいろな問題提起をしたけれども、それは経済主義が終わって共有型社会、参加型民主主義になるということ。僕たちの社会が根本的に変わる。これが「Society 5.0」とも言われてますよね。
テトラ
いつ何時、絶望的で破壊的な事象が起きるかの可能性は0ではないですけど、未来を信じていますね。僕自身は、良い未来をつくろうと思っています。個人個人の生きる目的は直ちに見出せなかったりするわけですけども、むしろ種全体は何か目的を持っているように感じるわけですよ。宇宙が生まれて、無から有が生まれる。そこから物質が生まれるわけです。物質が生まれるジャンプってすごいわけです。生命が生まれ、そこから意識が生まれる。僕たちは意識を持って、意識同士がつながっていく。すべての生命に意識があって、それが情報として一元化される。それは、宇宙の歴史、時間や空間も含めて、エネルギーという言葉に還元できるわけです。式で書くと「E=MC²」と書くことができます。「MC²」は今の時間と空間、「E」はエネルギー。時間も空間もエネルギーになる。ビックバンの瞬間、すべてのエネルギーが折りたたまれて地球上に我々がいるわけですけども、その僕たちはエネルギーの中にいるかもしれないと思うわけです。
桜井
アインシュタインの概念を、ニーチェは力の意志と言っていたのかな、と今思いました。
僕は1600年くらいからの地球史について学生たちと授業をやったことがあって、技術の進歩、政治の変化、戦争、思想、農や医療など、世界で何があったかをポストイットで貼っていくんです。そこでわかったのが、思想が先に出てきて、そのあと技術が少し遅れてやってきて、技術が民間の意識を開いて、デモクラシー的に民意が変わったときに、かつての思想を社会の変化の拠り所として再共有するところで社会が変わる図式ができているんじゃないかってなんとなく思って。
テトラさんの地球史的な観点からすると、世界が変わるときに何がどの順番で起きるのかが聞きたいなと。
テトラ
確実に言えるのは、抽象度が高い概念はなかなか理解しづらいから遅れて出てくるということ。そして、技術もしくは仕組みが生まれたときに社会が変わる。だからデザインなんです。
デザインに先行するのがアートですが、アートの語源的にいえば、技術そのものな訳です。美学的という考え方にも現れていますが、最終的にアートと言われている概念は、美しさに気づくこと。何が美しいと感じるかが先行するんですね。
そして、そのアートを社会生活に実装することができるわけで、そのことをクリエイティブと言っているわけですね。京都造形大学が芸術立国と言っているわけですけれども、これは、すべての人がアートやクリエイティビティで世界を変えていって欲しいとの思いが込められています。すべての仕事にクリエイティビティを入れられると。
大概の芸術大学は、1,000人の生徒のなかで一人の天才を生み出そうとする。その一人以外は諦めて就職するっていう芸術家のスタート。京都造形芸術大学はそうではなくて、1,000人が1,000人、すべての仕事に芸術を持ち込む人材を養成するってことをやっている。芸術家をつくるのではなくて、社会に芸術を持ち込む人材をつくる。それは似て非なるもの。
桜井
そう、こういう時代だからこそ、僕らの活動はアートだと思うんです。美しさを感じる活動をテトラさんは『WorldShift』というミュージアムとして見せようとしている。そこに環境意識はもちろんあるんですけど、それだけではなくて、人間としてそれは美しいと思うかどうかをみんなでみましょうよってことなのかなって。それさえ共有できれば、人はクリエーションできますよねっていう問いかけをするテトラさんの姿勢に、僕は深く共感します。
テトラ
ありがとうございます。それで言うと『WorldShift』の活動は、一言で言うと「巨大な社会彫刻」なんですよね。ヨーゼフ・ボイスが唱えている「社会彫刻」に相当すると思うのですが、すべての人がすべての仕事を通じて、社会という巨大な彫刻をつくりあげているという考え方。それがまさに今回の『WorldShift』のテーマで、それぞれのシフトやビジョンをどういう形で自分のミッションにつなげていくか?ということを宣言するというのが社会彫刻の場なんですね。
毎年『WorldShift 元年』と言っていて、誰でも始めたら元年になるわけです。これにコミットしなかったらはじまっていないわけで。毎年新しい『WorldShift』の実践者である「シフター」をつくりあげていくことが必要かなと思っています。
桜井
コミットし、そして次に何を始めると一歩シフトしはじめられると思いますか?
テトラ
多様に集まる人が、それぞれが活動している場があるから、まずは気になる人、そこに行ってみるのも手だと思います。
そして僕は、次は二歩目・三歩目の流れを作りたいと思っています。ラズロ博士は地球は危機的状況にあって、22世紀までに文明を維持できない理由が100以上あると言いました。これを変えていきましょう、と。それをいかに具体化していくのか。これを社会に実装させるとするシンクタンクができる。具体化の動きはいたるところで垣間見るけれども、これを一つずつ紐付けしようとすると、それを得意とする人、マンパワーが必要。社会運動にするには0を100にしなければいけなくて、ツールが必要。先行する概念はあるんだけど、ツールや仕組みを実装させることでソーシャルデザインできる。そこの社会実装はまだできていない。そこはぜひPLAY ONとしていけたらいいと思うし、今年海外からいろんな人がくるからそういう人たちとPLAY ONしたいですね。