ビジネスデザインが技術者と社会を変えていく
竹林 一さんへのインタビュー
常々、ビジネスとはアートになれると思っている。これまで人が見たこともなかった商品、経験したことがなかったサービス、それらの体験を通じて社会の価値観を変えていけることが、ビジネスにはできる。企業社会の日本において、「規模の大きな組織のなかで芸術的実践をしている人は誰か?」ということを考え、オムロンの竹林一さんに行き着いた。竹林さんは、現在の「PASMO」の前身となる磁気カードによる乗車カードシステム「パスネット」を事業化したことで知られる。その後も、オムロン関連の様々な会社の代表取締役を歴任しながら、新事業や事業再建を成功させてきたと聞く。と同時に、「あの人は変わっている」と、多数の推薦があった。グローバル企業の役職にありながら、「変わっている」という評判を持つ竹林さん。そんな彼がどんな景色を見てきたのか、その先に何を見ているのか、を聞きたい。そしてなにより、「組織内で創造性を発揮する」とはどういうことなのかを掴みたい。そう思いながら、京都駅のすぐそばにある、オムロン本社を訪ねた。
各鉄道会社で独立していた乗車システムを共通化、社会インフラをアップデートした。
「ビジネスデザイン」という独自のマネジメント理論について図式化する竹林さん。
本日は、大きく3点伺いたいことがあります。
1つ目は、オムロンという大きな組織の中において前例のない自分の道をつくりだした、そのやり方に迫ってみたいと思っています。
2つ目は、部下がどう創造的であれるのか、その状況をどうつくるのか、ということをお聞きしたいです。
3つ目は、社会でまだ認められていない価値を、どうやって認めてもらえるように動くのか、についてお聞きたいです。
僕が今日楽しみにしている理由の一つがデザインに関してのディスカッションが出来るという事です。高校時代に工業デザインを志望して受験したぐらい。結果的には合格できずに、コンピュータの学科を見つけたんです。その時はちょうどコンピュータが出始めた頃でそれで、プログラミングを学びはじめるんですね。僕は81年入社なので、1970年後半ですね。まだパーソナルコンピュータとか言ってない時代。その後、新規事業や、会社経営、様々な会社の立て直しや、新しい会社を起こしたり、そして今は新しい市場自体を創ろうとしているんです。そのなかで徐々に「すべてがデザインだなあ」と思いはじめているんです。そして「デザインで一番何が大切なのかな」と僕は考えた。ふと一番大切なのは「構想設計」のところだと気づきました。
「こういうものをつくるんだ」というものができたら、あとはデザインの世界ならそれを形にしたり色を塗ったり、プログラミングの世界ならプログラミングしていったり。経営も同じで「こういう会社にしたい」と言うのが大切、マーケティングや売上はその後についてくるもの。「一番の上位概念が何なのか」をつくる構想設計が一番大事です。そこが、デザイン力だと思っています。
その意味でこれまで自分はデザインをやっていたんだ、とわかりはじめた。そして「ビジネスデザイン」ということをこれから体系化していきたいんです。それが私の使事(使命をもってやりたい事)かなあと思い始めています。
自分の道を歩きだしたのはいつからかな、と考えてみたんですが、これまでも死にそうな仕事はいっぱいあったんです。そのなかでも、一番自分が変わった大きな仕事は「パスネット」という、1枚のカードで関東の17社局全ての鉄道に乗れるようにするという仕事です。ソフトウェアだけで1年で6,000人月、月500人が関わり、4,200,000ステップのプログラムを作ったというプロジェクトです。テーマが1年で600テーマ同時に動く、1年で600のテーマが動くということは、リーダーを1人ずつ割り当てても600人必要になるということなんです。「関東の鉄道を1枚のカードで繋いでしまおう」というもので、そのプロジェクトリーダーをやれ、と言われた。2000年です。それまでも鉄道のプロジェクトはいくつかやったことがあったので、「お前ならできる。やれ!」と。でも、これは1年で600ものテーマがあって、しかも鉄道を繋ぐシステムってどれか動かなくなったら、全部動かなる。システムというのは1台の機器のなかで完結しないので、非常にややこしいんですね。
僕はこの時「失敗したら会社を辞めなきゃいけない」と思いました。「会社辞めるどころか、オムロンが潰れるじゃないかな」と思うようなプロジェクトを「お前がやれ」と言われた。その時に「プロジェクトマネジメント」を1から死ぬほど学びました。
結局、「プロジェクトは人」なんです。いろんな開発ツールやスケジュール管理ツールがありますが、それも大事なんですけど、プロジェクトというのは人がやっている。だから「いかに人のモチベーションを上げるか」とか、「早く悪い報告が上がる仕組みをつくるか」とかが大切。各自のモチベーションの源泉や困っていることを早く見つけないと600テーマが最後に一斉に問題を起こしはじめると、もう死んじゃいますよね。そういう時、「1番最適にできる方法が何か」というのを考えた。そして、これは「コミュニケーションをデザインする」事だと学んだんです。様々なコミュニュケーションツールを使って「今どうなっているの?」というのを徹底的に現場にヒアリングをする。「現場の本当の声」を知るために。
あと、上司から学んだことがあります。その時の上司がすごくて、カンパニー社長に「このテーマは大丈夫か?」と聞かれても、僕の直属の事業部長は「竹林に任せているから大丈夫です」と言うわけです。それで事業部長が何をしてくれたかというと、「何か困ったことがあったら何でも言ってこい」と。そして本当に相談に行くと全部やってくれるんです。例えば、オムロンの中で、駅に関する仕事を経験したことがある技術者を全員集めてくれるんです。「今の仕事を止めて、どれかこのテーマを受けてくれ」と、全部上司が動いてくれたんですね。その時に僕は「信頼感」というものを学びました。
「人のモチベーションを上げる」コミュニケーションのデザインにおいては、どういうことをしたんですか?
元々大学の時に情報心理学を研究していたんです。その時に「モチベーションカーブ」の研究というのをやっていたんですね。
それで全メンバーのモチベーションカープを把握する仕組みをつくりました。横に時間軸を置いて、縦は0から100で、オムロンに入って1番楽しかった時が100、1番嫌だった時が0です。それでモチベーションのカーブを描く。上がったり下がったりしているそこには、何かしらの理由があるんです。重要なことは、今何が起こっているのかということをコミュニケーションすることです。
例えばある課長は「こいつはモチベーションが高い、それを信じて任せているんだ」と言う。でも、その人のモチベーションは落ちていて、「なんで落ちているのか」と聞いたら「課長が話を聞いてくれてないから」と。「俺はお前を信じてるから、何かあったら言ってこいよ」と、一言課長が言うだけでモチベーションは上がるのに、その一言がない。結果的にほったらかしになってる。そういうことはよくあることです。
パスネットのプロジェクトの時も、プロジェクトマネジメントオフィスというのを置いて、そのようなコミュニュケーションツールを使って「今どうなっているの?」というのを徹底的に現場にヒアリングをしました。「現場の本当の声」を知るために。
それで、2000年の10月14日、鉄道記念の日に関東の17社局が全部1枚のカードでオープンして、ノークレームで動いたんです。「勝手にコミュニケーションをしろ」といっても何も起こらなくて、コミュニケーションが起きていくような仕掛けをデザインするということを、その巨大なプロジェクトで学びました。
もう一つ自分が変わった大きなことがあります。長期休暇をもらって、東京から京都まで歩いた時です。先ほど話したように「現場で何が起きているのか」それを見ておかないといけないので、ともかく歩くということをやっていたんです。例えば、鉄道会社との新事業なら、その鉄道沿線を全部歩く。東京の街のコンテンツを使ったビジネスを立ち上げるなら、昭文社の東京都の地図にある314区画を3年半で全部歩く。その延長で、長期休暇を取れた時に、「ひょっとしたら、これは東京(当時単身赴任で住んでいた恵比寿)から家まで歩けるんじゃないか」と思ってしまったんですね、笑。そして、東京から京都の家まで15泊16日で歩いて帰ってきました。その歩いてる時にやっぱり考えるんですね。「なんでこんなことしてるんだろう」とか「何のために生きてるんだろう」とか。「僕はなんでオムロンに入ったのか」とか「何の仕事がしたいのか」とか。その時に「デザインの力で社会システムをつくりたい」と思ったんです。
社会システムをつくるというのは、例えば、自動改札機というのはハードウェアではないんです。それよりも自動改札機がつくる世界観というのがある。それが新しいものを生み出していくんです。それをハードとして見てしまったら、Q (クオリティ)C(コスト)D(デリバリー)しか見るものがないんです。でも、これが「どんな世界観、社会システム」をつくるのか。それがやりたかったんだなと思った。QCDのベースになる機器はオムロンが作ってくれるので、僕の仕事というのは「それを使った仕組みをつくること」だと。
それともう一つ。僕はエンジニアなので、やっぱり「エンジニアの目を輝かせたい」ということがあった。QCDに追われちゃうと、だんだんエンジニアの目が輝かなくなってくるんです。エンジニアの目が輝いていない会社は絶対に伸びないだろうと思って、「エンジニアの目を輝かす」というのが僕のもう一つのミッションだと歩きながら思いました。
自分がやりたかったのはこの2つで、そのためにオムロンにいる。「新しい社会システムをつくること」と「エンジニアの目を輝かせること」。それは、どこに行っても一緒なんです。業界が変わっても、会社が変わっても。
モチベーションカーブをはじめとしたコミュニケーションツールを使ったり竹林さんがしてきたことは社内的には「前例がないマネジメントスタイル」であることが多かったと思います。前例がないということは、時には反対されたり、抵抗が強かったりしたと思うんですけど、そういう時はめげずにやり続けるんですか?
めげてますよ。けど、それをやらないといけないと思っているんですよね。新規事業でも、創業でも、立て直しでも、毎回、毎回新しいところに行って一から学んで事業成果を出すまで時間がない。でも、そんな中でなんとか成果を上げて、一緒にやっているメンバーの目を輝かせたい、お客さんの課題を解決したいんです。別に手段は何でもいいんですよ。ともかく、その会社の風土に合ったモチベーションの上げ方が大切。社員のモチベーションが上がらなかったら、2年とかで復活はしないし、ビジネスの構造も変えられないんです。その思いが上位にあるから別に叩かれても良くて。もちろんハレーションも起こりますが、「こういう世の中が来るから、こういうビジネスを立ち上げていくべきだ」と、本当に思うからできる。
例えば、自動改札機を通ると子供にメールを配信する事業であれば、自動改札機の機器を納入してる部門とも、個人データを取り扱う戦略部門とも、それをお金に変える部門とかも話をしないといけない。さらに、鉄道会社も複数ある。縦にも横にもつながないと成り立たない構造のなかで、一つ一つのところに新規提案を持っていっても、なかなか進まないわけです。そういうなかで悩んでる時に先輩に相談したら「本を書け」と言われた。そして、本を書いたんですよ。「モバイルマーケティング進化論」という。別に本を売るためではなくて、「その本を相手のトップに送っておいたらほとんどの人は会ってくれる」と。だから本ができたら鉄道会社の社長に全部送って「ご意見を伺いたい」と。すると全員「会いに来い」と言ってくれるんですよね。そのルートから「こんな事業を立ち上げたいんです」と話をしたら「誰々に話しておいてあげるから、行ってこい」と仰って頂いて事業が立ち上がっていく。本を売るために書いたわけではなく、ネットワークを開くために本を書いたわけです。「こういう世の中が来るから、こういうビジネスを立ち上げていくべきだ」と、本当に思うからできる。僕に「will(意志)」があるからできる。willがなかったら.怖くてできないですよ、さすがに。
willがあるから、会社や事業が変わっても、一方的なものを持ち込まずに、その風土に合ったやり方を毎回、毎回模索できる。イノベーションを起こそうとするとハレーションは起きるんです。だから1番安泰でいこうと思ったら、イノベーションを起こしているフリをしておけばいい。willがないと、その突破力が出てこない。
「組織のwill 」と「自身のwill」をどう重ねているんですか?
やっぱり「エンジニアの目を輝かす」ということと、「新しい社会システムをつくる」の2つです。「新しい社会システムをつくる」ということの裏には、「お客様にとってなくてはならない存在になる」ということがあります。「あってもなくても同じ会社というのは嫌だ」というのをリーマンショックの時に痛感して。その時に僕は代表取締役としてソフトウェア会社の経営をやっていたんですけど、目の前から何億もの仕事が急になくなっていくんです。それが「なぜなのか」と調べてみたら「1人月の単価が高いということ、以上」だと。ということは、「僕らは1人月の単価でしか見られてなかったのか」という話ですよね。高くても「そこにいてくれ」と言われるのかどうかです。だから「お客様にとって、なくてはならない存在であるために、どんな改革をしていかなくちゃならないのか」ということを仕掛けていく。本当にそこが本質ですよね。それがなかったら、イノベーションは起きないから。
イノベーションやコミュニケーション、経営を教科書から学んで、やったフリをしても、そこに書いてあるようなことはみんながやるわけだから、単なる価格競争やスピード競争になる。今言ったみたいに安い方がいい、早い方がいい、「あってもなくても同じ会社」になってしまいます。組織も個人もwillを持つこと、要するに存在理由を持ち、それを形にすることがイノベーションにつながるわけですね。
「軸」なんですよね。その軸というものを、どうデザインで見せていくのかということもとても大切。「その会社の軸が何か」を明確にしていくと、価値観が合ってみんなが動きやすくなってくるんですね。「その会社の軸が何か」というのは常に考えています。
例えば、生産受託会社の立て直しの時。電子機器の受託生産を行う業種のことを、EMS(Electronics Manufacturing Service)と言うんですが、経済産業省の分類を見たときにEMSって、サービス業の下にあったんです。EMSの「S」は「サービス」なので。僕らの生産受託会社は、サービス業であって、製造業ではなかったんです。なぜかというと、例えば時計であれば、それを作っている生産ラインを見てから買う人はいないですよね、これがメーカー、製造業です。EMSは、あくまで作るプロセスを提供している。すると、同じサービス業に分類される旅館も、プロセスを提供している。そこで、「うちの会社は旅館になる」ということを軸にしたんです。
それで何が起こっていたかというと、例えば、挨拶。当初、営業スタッフは偉いお客さんが来たら「挨拶してください」と、社長を呼びに来ていたんですよ。「相手の社長が来られます」「役員が来られます」みたいに。でもよく考えたら、うちの会社は旅館と一緒のグループ。旅館の女将さんは「あの人が社長だから」挨拶するとか関係ない。だから、僕が会社にいる時はお客様全員に挨拶する、と。
最初はもちろん「何を言ってるのかわかりません」とかいうスタッフが多かった。でも、僕は生産現場を知らないので、生産現場の一つひとつを「もっとこうやったらいい」とか言えないじゃないですか。そこはもうみんなを信じて任せるしかない。逆に旅館としてのサービの話をずっとしていたんです。
今でも覚えてますけど、2年目の6月に、製造部品を管理してくれている女性スタッフから「今日、お客様は何名いらっしゃいますか?」と電話があったんです。そして、会社に着いたら人数ぴったりにスリッパが並んでいた。それで次の日、朝礼で集まってもらったときに、「スリッパを並べてくれてお客さんも凄く喜んでくれていた」と言ったら、その次の日には手書きのウェルカムボードができて、生花が飾ってあったんです。それでまた「すごいな」と言っていたら、「このトイレは従業員は使ってはいけない」というルールをスタッフ同士で決めてお客様専用のトイレができた。偶然かもしれないけれど、そのスリッパが並んだ2年目の6月から黒字が始まったんです。ありがたかったです。
「うちの会社は製造業じゃなくて、旅館と一緒でサービス業」というメッセージ。それだけで「こんなことやったらお客様が喜ぶ」と一つひとつみんなが考えはじめてくれるんです。そうなった瞬間にプラスの循環が起こり始めて、生産性が勝手に上がり始めたり、在庫が減り始めたりするんです。その時にもデザインの力が重要。PowerPointで50枚使って説明するよりも、「うちの会社は旅館です」というデザイン。
みんなが「なるほど」というような軸ができると、面白いですよね。自動改札機でメールを配信するというのも、「駅を街の入口」にするというのが軸でした。「鉄道への入口」というのは一通りもう終わったので、「駅というのを街の入口としたら、次はどんなことが起こるのか」と。
それが最初の話「芸術」につながるかもしれない。新しいワクワク感が出てくると、みんなが動き出す。
「QCD」、つまり「クオリティー」「コスト」「デリバリー」って言葉があります。日本のメーカーってQCDで勝負するんですけど、しかし、クオリティーとデリバリーを高めても、「ありがとう」と言われるくらいです。もちろん、品質、納期は守らなかったら大変なことになります。ところが1つだけ落としても喜ばれるものがある。コストなんです。コストだけは落としてもお客様に怒られることはない、喜ばれる。だから、QCDで勝負しているとコストを落とし続けるしかないんですよね。そこで、何が大事かというと「仕組み」です。お客様にとってなくてはならない仕組みをいかにつくれるか、ということです。先程話したサービス業としての生産受託会社もQCDはあって当然で、いかに「ここと付き合いたい」という仕組みをつくっていくか。ビジネスモデルを含めてどうそれをデザイニングしていくのかということ。そのような「ビジネスデザイン」という領域をつくりたいんです。
「ビジネスデザイン」という領域へとつながるヒントのようなものは既に見つかっているんですか?
「起承転結型人財育成モデル」というものを今、日本で流行らせようとしているんです。
「起」が、0 から 1 を作る人。
「承」が、1を100にする人。
「転」が、レビューやリスク管理、或いはKPIを設定するのがうまい人。
「結」が、QCDにこだわりやり続けてくれる人。
オムロンも含めてどこの会社も創業時は「起」「承」の人がたくさんいたんです。「起」「承」の人たちで「ある領域が儲かりそうだ」と見つける。そうして次は、「転」「結」を回すほうが利益を最大限にできるんです。だから、「転」「結」の人が日本中の企業に増えていくんです。ところが今はかつての社会のモデルとかビジネスモデルが成り立たなくなってきている。いくら生産性を上げたとしても、作っているものが売れないのだから、今度は「起」「承」が必要になってくる。「転」「結」は、どちらかというとベースは「オペレーション」、そして「QCD」が中心なんです。「起」「承」はどちらかというと「イノベーション」、そして「トライ&エラー」なんです。さらには、「起」の人というのは基本的に「妄想設計」なんですね。「承」の人は「構想設計」。「転」の人は「機能設計」。「結」の人は「詳細設計」なんです。それで今何が起きてるかというと、「転」の上司が、まだ「妄想設計」をしている段階で「機能設計」のレビューを入れたりするんです、笑。まだ妄想が大切な時期なのに、リスク管理を求める、みたいなことが起こる。今、企業の中では「転」「結」が増えて来ているんですよね。それをやるのが一番儲かるから。最近ですよね「起」「承」が必要だ、となりはじめたのは。でも「起」の人は、遊んでるように見えるから、「転」の人から見たら「また、あいつ遊んでる!」みたいな、笑。
どれが良いとかいうことじゃない。プロセスに応じて「起」「承」「転」「結」があるポジショニングで必要で、お互いに認め合えるということがすごいことなんです。「起」「承」ばかりが会社にいると会社は潰れるんです。「面白いなぁ」ということで走るから。社内からお金を取って来ようと思ったら、「起」「承」じゃ取締役会は通らないので、「転」を通して精緻化して、レビューして、「結」の人がやり続けてくれる、というサイクルがちゃんと回っているということが大事なんです。特にこれから「承」が重要になってくると思います。つまり「プロデュース能力」です。アート感覚を持った人を僕は「起」だと思っていて、それをデザイン力のある「承」が繋ぐ。そして「転」の人がサイエンス、論理立てて精緻化してくれる。最後は「結」の人がクラフト、きっちりかたちにしてくれる。最近気付いたのは「転」「結」は組織の論理で動いていて、「起」の人はコミュニティの論理で動いているんです。これがまた合わないんですよね。そこで「承」の人が何をしないといけないかというと、コミュニティの理論と組織の理論を繋いであげる事。例えばカンファレンスとか学会とかを立ち上げると、「起」の人は出張にいきやすくなる、笑。「起」の人が「あのコミュニティに行ってきます」とか言うと「なんやねんそれ?」とか「それに行って何が起こるの?」とか言われる。ところが、カンファレンスのように大義名分を真ん中に入れてあげると行きやすくなるんです。そういうことをちゃんとわかった上で、組織や事業を設計することが大切なんです。
特に「承」は企業が育てなきゃいけない。企業の中から「承」を育てて、逆に「起」の人たちは必ずしも企業の中にいる必要はないので、外の「起」の人たちと企業との間でバッファになって、自分の会社に合うモデリングにしていくことが大切なんです。企業内の「人」「もの」「お金」が動くように大義名分を立てて、「転」「結」の人たちに繋いでいく。「転」「結」の人たちは実行力があるので走り始めると凄い能力を発揮します。
「承」は本当のプロマネみたいなものですよね。「転結時のマネジメント」と「起承時のマネジメント」も違うんです。これもちゃんと分けて、マネジメントしないといけない。そして「承」が全体をデザインしてみんなを動きやすくする。
ご自身のwillに従って仕事のやり方そのものからデザインする、ということをずっとされてきて、どういうことが得られたと思いますか?
自分のwillがありますよね。それで、他人にもそれぞれwillがありますよね。これを掛け算していくというネットワークは一番ありがたいですよね。答えは現場にあるんですけど、ヒントは外にいっぱいあるんです。これまでとは違う考え方や違う発想は、外にいっぱいあって、それが、掛け合わされる。本当の意味での「オープンイノベーション」だと思っています。
「システム品質の法則」というのがあるんです。AというサーバとBというサーバがあって、ネットワークで結んでテストするというものなんですが、例えばAが「8割できました」として、Bも「8割できました」として、テストしたら0.8×0.8、つまり0.64になる。そこにまた違うCというサーバを持ってきて「8割くらいですけど、納期がないのでテストしてください」と言っても、さらに0.8をかけるから、ほとんど動かないんです。何が言いたいかというと、オープンイノベーションと言って集まるのはいいけど、「1.0以上の人」の集まりにいかないと、何かを生み出すことはできないんですよね。
今の話の「1」というのは、willを持っているということですか?
そうです。つまり「これをやりたい」というwillですね。僕、オムロンの創業者の立石一真さんの言葉が好きなんです。「会社にとっての利益は、人間にとっての空気と一緒だ」と。「利益というのは追い求めろ、だって空気がなかったら生きていけないから。だから空気が必要なんだ」と言った後に「そうだけど、息を吸うために生きている人間はいない」と書いてあるんですね。売り上げにしても、利益にしても大切です。しかし、それは息を吸うためではなく「社会の課題を解決するためにこのお金をまわさないといけなんだ」と言っていて、それでずっと発展してきたんです。僕はそれが一番好きで、今まで経営をやってきて原点はそこにあります。僕は「エンジニアの目を輝かす」ということがあるんですけど、輝かせるためには、会社が儲からないといけないですよね。儲かったら、その分が投資されたり、その分で色んな面白い仕事させてあげられたりするんです。それがwillなんです。
上司として、部下の人たちに「自分のwill」に気づいてもらうための工夫についても教えてください。
仕事って二つしかないんです。「楽しい仕事をする」か「楽しく仕事をする」か。だからいかに「楽しく」もっていけるのか、その人の能力を伸ばしてあげるのか、というのが原点ですよね。あとは、わかりやすい「軸」。
社会にとってあまりにも新しいビジネスって、社会にとっての「起」に当たりますよ。当然、なかなか儲からないじゃないですか。そういう時はどう進めるんですか?
今、「センシングデータを流通させる」という世の中をつくろうとしているんです。センサーが得たデータを証券取引所みたいに流通させて、それが新しいサービスを生み出す。社会課題が複雑になるなか、それらを解決するためには、各自が持っているいろいろなデータが必要になってきます。そこで、みんなが持っているデータを流通させる新しい市場、「IoTの楽市・楽座をつくろう」と言っています。それによって新しい未来をつくれる、と。そんな未来を創る為に、国にも動いていただいています。でも「IoTのデータ、センシングデータを流通させる市場」と言っても「え?」ですよね。それでも昨年から、センサーメーカーとしてのビジネスモデルを考えることと並行して自由民主党や経産省に行って「こういうデータを利活用できる世界をつくらないと、日本は負けますよ」とプレゼンさせてもらって。そんなことをずっとやってきて、今年6月の『未来投資戦略2017』に、データ流通のための民間団体の発足が記載されました。
「これが世界を変えるよ。日本を変えるよ」と言う世界観を描き、時間軸を設定してその途中途中で、どんな成果を出すかというデザイニングです。
「成果をデザインする」ということですね
?
竹林 はい。KPIも、いきなり儲けのKPIじゃないかもしれない。ステップ1は、100社で何かを立ち上げて、新しいセンシングの世の中が出てくる、とか。2020年くらいから「センシングデータを流通する」世の中が立ち上がっている、そんな世界になっていくだろうなって思います。売り上げだけじゃないKPI、最後は売り上げになっていくんですけど、それも「デザイン」ですよね。そうじゃないと、新しいことが起こっていかないですから。