理の小噺 第2話「ほどいて結びなおす」

江口 海里さんによる連載
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今この文章を読んでいる機器(デバイス)はなんですか?スマートホンでしょうか?PCでしょうか?おそらくそのどちらかだと思います。

私たち現代人は当たり前のようにたくさんの工業製品に囲まれて暮らしています。周りを見回せば飲料用のペットボトルやボールペン、家には冷蔵庫や洗濯機、エアコンがあると思います。トイレも工業化されたものがほとんどで、なかにはフタが自動で上がるような未来的な物を使用している人もいるかと思います。工業製品が1つもない空間というのはもはや存在しないかも知れません。

では、それらすべてにデザインした人がいるということをご存知でしょうか?

ほぼ全ての工業製品にはデザイナーの意図が存在します。もし「誰でも簡単にその意図を紐解く事ができた」ならばデザインはもっと理解されます。つまり一般の人がデザインをより楽しむことができると思うわけです。誰でもデザインを楽しむことができたならば暮らしは少し面白くなると思います。
私はデザインをする時、「更地に戻す」ことをすると前回書きました。今日はその次にいつも考えること、あるいは仕事に関係なくデザインを見ている時に感じていることを俯瞰的にここに書いてみようと思います。

組まれたデザインをバラバラにする

デザインの意図を読み解くには、その要素を分解する必要があります。次に分解された要素に何か定義づけをします。その段階でデザインは少し理解できます。デザインはユーザーに直感的に価値を届ける物だと常々考えています。ユーザーはデザイナーのプレゼンを聞くと言うことはほとんどなく、まず直感的に判断するからです。しかしデザインを生み出す工程においては直感的にデザインしません。必ず思考に段階があり、理論立てて成り立たせていきます。

皆さんの身近にある物で何か例をあげてみたいと思います。
ペットボトルの要素を分解してみましょう。
まず全体として透明な筒状の容器に入っていることが多いです。中身の具合や残量を確認する為に透明な場合が多いことが推測されます。そして正面から見て中心より少し上にラベルが巻かれています。キャップは別の素材になっており、購入後にひねって開栓できます。またボトル容器の表面には凹凸があります。
これら全てに意味と役割があります。
透明な筒状の容器の断面は薄い膜状になっており内容物が見えるようにできています。これはブロー成形という成形方法で生産されています。ブロー成形とはこの形状の金型の中に樹脂に熱を加えながら風船のように空気を吹き込んで固める方法です。袋状になる為、液体やペーストなど漏れるおそれがある物を入れる、容器のような物にはよく使用される成型方法です。

観察して推測する

ではボトルを良く観察してみてください。
細かな凹凸が確認できると思います。実はこの凹凸には意味があります。ブロー成形で生産された物は薄い膜状でできているため強度が弱く、生産時や運搬時に破損しやすくなります。ですがこのように細かい凹凸(折り目)を付ける事で強度が上がり破損から守っています。すごく左脳的な問題可決の方法です。
ペットボトルは不思議な工業製品で、棚にならんでいる時は破損の無い状態が望ましいのですが、リサイクルして廃棄する時は実はつぶした方が運搬効率が良く、後から解体し、つぶす事を前提に設計されています。生産者、販売者の視点に立てば、破損の無いように強度を付けつつ、役割が終わればユーザーが簡単につぶす事ができる。そのようなペットボトルが優れている、という評価軸を設けることができます。

ここまでが最低条件だと捉えた場合、私はさらに「凹凸があって強度が出るのであれば本来はどのような形状でもいいはず」と考えます。左脳的(機能的、理論的)に問題解決された要件を維持しながら右脳的(感情的)な価値を付加したらどのような体験ができるだろうか。と考える。これがデザインの基本だと私は思います。

容器の基本ボリュームは四角柱を基本とした形状と、円柱を基本とした形状があると思います。四角柱は強度もあり、箱に詰めた時の運搬効率が高い(輸送コストが低い)。円柱になっている物は中の状態が不安定な物(強めのガスがかかっていたり、沈殿物が発生しやすかったり)を安定させたりとそれぞれに理由が存在します。私が知らない理由もまだたくさんあるかも知れません。「凹凸があって強度が出るのであれば本来はどのような形状でもいいはず」と言う仮説の元に、形状もまた左脳的問題解決の延長上にあることがわかります。

ここまでを読んでいただけたなら、いくつかのペットボトルのラベルをはがして並べてデザインを見比べた時、それぞれのデザインの意図を感じ取ることができるはずです。あるヨーロッパから取水した水のボトルには、その水が取れる山が立体で描かれています。また京都のお茶をイメージしたボトルには竹の節が立体で表現され、ある海外の炭酸飲料ではスパークリングをイメージさせるつぶつぶのテクスチャーがデザインされています。

この手法に式があるとするならば「強度向上の為の凹凸+運搬や中身の条件に合わせた形状+情報付加」です。同じコスト内でデザインの寄与率を高め、商品性を高めているということです。私のようにここまで深く読み取ってデザインで商品を買う人はほとんどいないと思います。しかし多くの人はデザインをうっすらと感じながら購入していると思います。
一方で、凹凸をデザインに利用せずにそのまま販売しているボトルもあり、それはある特定の飲料だけでなくいくつかの飲料に共通の物を使っている場合なので、さらにコストダウンした物だということがわかります。
その場合は全面にラベルが貼られている場合が多く、おかげで外観上に凹凸は見えず、廃棄時にラベルを剥がして初めてその凹凸を見ることができます。これもデザインでできる工夫の一つです。ラベルはペットボトルにとって情報を司る物です。ブランド名、商品名、原材料名などが全て記載されており、商品を買う時のバーコードも配置されています。
ラベルを貼っている面が円筒の場合はそのバーコードはだいたい縦に配置されているはずです。これにも理由があります。曲面にバーコードを横向きに配置した場合、バーコードが歪んで読み取れない場合があるからです。筒状の横断面は円形に近いですが縦断面はある程度水平に近い事からエラーを防止する為に縦に配置される場合が多いのです。工業製品は多く生産されますので一度のエラーが何千何万のエラーになります。事前に防止することは必然なのです。それでも時々エラーが出てしまったものはユーザーから厳しい言葉で指摘されてしまいます。

ペットボトルのラベルは糊で付けた物と熱をかけて付けた物があり、ラベルの端に(必ずしもあるかはわかりませんが)三角の印がある物は前者で、ミシン目が2本入っているものは後者だと思います。その構造はラベルを剥がしてから捨てる為の物です。

ラベルを剥がすことの意味性

なぜ剥がすかというとボトル容器とラベルは素材が違うため、きちんとリサイクルする為にはそれぞれ別々に分けないといけないからですが、残念ながら正しく分けている人はあまり多くないと思います。本来、環境の為にはこの行為はもっと徹底されていいはずですが、ラベルをデザインする時に「分別の為にラベルを剥がす事を促す」表現の優先順位が低いことが根本的に問題なのかも知れません。(ラベルを貼ったままゴミ箱に捨てた物はほとんどリサイクルされていないと考えて良いと思います)

では、もしここに「ユーザーが積極的にラベルとボトルを分けるデザイン」をするならば、どのように考えますか?少し想像してみてください。想像した瞬間から誰でもデザイナーです。

デザインを考えてみる

少しアイデアを書いてみましょう。
たとえば果実を使った飲料の場合、少し皮がめくれて果肉が見えるデザインになっていたら、めくりたくなる衝動に駆られその先をめくって結果的にラベルを剥がさせる方法も考えられます。
お茶の場合であれば、その生産にまつわる物語を描いてそれを下にして2重の構成にし、めくればその情報が出るようになっていてもいい。水であればめくる事で水源から水が湧き出るような絵になっているなど、本来の目的(分別の為にユーザーに行動を促す)ではなく、他の目的(ユーザーを楽しませる)方法で結果として分別を促す。
これもデザインです。

もう少し突拍子もないアイデアにするならば、キャップの上からラベルを貼り、開栓と同時にめくれてしまうような構成にするのも良いかもしれません。これは飲料を飲む行為に直結するのでユーザーがそのことに関心が無くても「分別の為にラベルを剥がすことを促す」という問題解決ができます。行為や結果だけで考えれば昔ながらのビール瓶などの王冠はそのようにできていますね。ガラス瓶のリサイクル率は非常に高いです。ペットボトルはその代替品なのですがリサイクル率向上にはまだまだ工夫の余地があります。

話はキャップに移行します。
キャップはだいたい色がついており、開栓した場合は下に輪が残るようにできています。異物混入などを防ぐ為に未開栓を証明する為でもありますし、ユーザーが開栓するまで中の液体が外気にふれない為でもあります。
開栓したらネジ構造が現れます。ユーザーが再度キャップできるようになっています。これは機械的(左脳的)な構造です。そしてキャップがフタと輪に分かれたとき、本来の分別ではこの輪も分けないとだめなのですがこれをユーザーが素手で取り外すようにはできていません。

ではこの機械的な要素は残したまま、もっと豊かな体験を生み出す事はできないでしょうか。
ネジ構造に直接口をつけずにすむ為に少し飲み口がデザインされていてもいいと思いますし、もっと深いフタ構造になっていれば小さいお子さんでも手を全体使って開けられるようになるかも知れません。直径が大きくなればそれは高齢者に開けやすい物になるかも知れません。輪は完全な輪にせずに少し隙間があるだけで取り外すことができますし、もっと面白いアイデアもきっとあるはずです。

もっと「更地に戻し」て「ユーザーが再度栓を閉めること」が目的であることを前提とするならば、別の構造をデザインすることも可能で、より簡単に完璧に分別でき、よりユーザーが楽しむことができるキャップを生み出せる気がします。

これからのデザインの「理」

これからのデザインは、これまでのデザインより、この世界に全くなかった物をデザインする機会は少ないと思います。そこで過去の事例を深く観察する必要があると思います。それらをひとつひとつ分解し、解釈し、定義して別の価値を付加する。
動かせる、変更できる要素を理解し、そこにある新しい体験や美しさ、未来へ続けていける「理」が見つかったならばそれはデザインとして成功だと思います。

今わかっている問題が感覚的な問題なのか、論理的な問題なのかを定義し、さらにユーザー、生産者、販売者のそれぞれの状況を分類し、分析すれば未解決の問題を見つけることができます。そしてその問題を遊ぶように解決を試みるのです。たとえば論理的な構造に感覚的な価値を持たせてみたり、ユーザーが楽しめる要素を付加することでもっと本質的な環境への問題解決の糸口にするなどです。

お茶の場合であれば、その生産にまつわる物語を描いてそれを下にして2重の構成にし、めくればその情報が出るようになっていてもいい。水であればめくる事で水源から水が湧き出るような絵になっているなど、本来の目的(分別の為にユーザーに行動を促す)ではなく、他の目的(ユーザーを楽しませる)方法で結果として分別を促す。
これもデザインです。

冒頭の言葉に戻りますが、工業製品が1つもない生活をしている人はほとんど居ないといっても過言ではない程に、現代人は工業製品の恩恵を受けて暮らしているはずです。
もし工業製品が無ければどんな暮らしになるかは想像もできません。大量に効率よく生産することでコストが下がり価格も同時に下がるのであれば、1つの物に人ひとりが何日も製作にかかってしまう物の値段は高くなります。つまり様々な道具は高価になり買えない人も出てくるかも知れません。工業製品を大量に生産したことで、安価に便利を生み出している反面、環境に不可がかかり、また生産効率が優先され産業化以前に比べて心に響く物が少なくなってきたと言う人も中にはいるでしょう。ですがアイデアひとつでその両方を立てることができると僕は考えています。

密接に絡み合っている糸をほどいて正しく結び直す行為に近いかも知れません。工業製品は生産効率が優先される為、こういった豊かな体験はいつも後にまわされます。その諸条件をクリアしながら良い体験を生み出すのはこれからのデザインに必要なこと。私はここに新しい「理」を見つけて未来へ向けて進化させていきたいと考えています。

TEXT BY
江口 海里

江口 海里

デザイナー

大阪生まれ。大阪市立工芸高等学校、大阪市立デザイン教育研究所にてプロダクトデザインを学び、8年の下積みを経て2008年に自身のデザインスタジオを大阪に開業。ミラノ、ロンドン、台北、上海、東京など世界各地のデザインエキシビジョンに参加し、現在はアジア圏をフィールドに工業デザインを中心としたデザインブランディングを各国のクライアントと共に行っている。
http://kairi-eguchi.com/

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